令和5年度税制改正大綱について
今回は令和5年度税制改正大綱のうち相続税や贈与税に関連するものを説明します。
なお、記事投稿日時点の「大綱」であり、今後変更の可能性があり得ること、法律として成立しないこともあり得ることにはご注意下さい。
1.相続税の計算上課税対象財産として処理する生前贈与財産の拡大
相続税の計算はごく簡単に算式化すると下記の通りになります。
・「相続発生日の財産△債務+一定の生前贈与財産※1△基礎控除※2」×税率※3
※1「相続前3年間の贈与の加算」と「相続時精算課税制度の贈与の加算」があります。
通常は前者となります。
相続時精算課税制度は後述しますが一定の届出書を税務署に提出した場合のみ適用を受けることが出来る制度です。
※2 基礎控除=3千万円+6百万円×法定相続人の数にて計算します。
※3 課税対象額に応じて10%~55%です。
今回税制改正大綱の対象となったのが上記算式の「一定の生前贈与財産」のうち「相続前3年間の贈与の加算」となります。
なお、算式をご覧いただければ分かりますが生前の贈与を相続税の課税対象に加算する制度なので納税額は基本増加します。
そもそも何故「一定の生前贈与財産」が相続税の課税対象になるかと言いますと、相続発生前に財産を相続人等に贈与することにより
相続日時点の財産を圧縮し相続税を免れるのを防ぐためです。
贈与については現行の税制であれば1年あたり110万円を超える贈与を受けた場合に、その超える部分に対して10%~55%の贈
与税(贈与税の計算には「相続時精算課税制度」もありますがここでは割愛します。)が生じますが、この贈与税も生前に贈与をする
ことにより相続税を免れるのを防ぐために「相続税法」という法律の中で決められている税目になります。贈与税は相続税を補完する
税となります。
つまり現行の相続税法では①贈与税を課すことによって相続税を免れるのを防いでいる②相続発生前の3年間の贈与を相続税の課税対
象にすることにより相続税を免れるのを防いでいるといえます。
今回の税制改正大綱の内容は②の3年間を7年間に延ばすというものです。
3年から7年に延ばす理由ですが、現行の制度が富裕層に有利なものとなっており課税の公平性がないのではという議論から始まって
います。
ごく簡単な例で申しますと100の相続財産があり税率が50%であれば50の相続税が生じます。
これに対して生前贈与にて10の贈与を10年間行い税率が20%であった場合には贈与税は20となります。
(10×20%×10年間)
このように同じ資産の移転でも税額が30贈与の方が少なくなります。
このような仕組みを利用して次世代への資産の移転による税負担を軽くする富裕層が多くいたことから富裕層に有利な税制になってい
る、富裕層とそうでない人の資産格差がますますついてしまう、公平性がないのでは無いかと言われていました。
そこで相続税の課税対象になる生前の贈与財産を相続前7年間に延ばすことが税制改正大綱に記載されることになりました。
また、相続発生日の7年前よりさらに前に贈与を行えば相続税の課税対象とならないので、子供・孫世代への金融資産の移転が行われ
やすくなるのではとも言われています。
国として現役世代に金融資産を移転してもらい現役世代に利用して欲しいという思惑もあるようです。
なお、新たに相続税の課税対象となった相続前3年超7年以内の期間の贈与金額から100万円を控除した金額を相続税の課税対象と
して加算することが大綱に記載されています。
100万円の控除は過去に受けた贈与の管理の事務負担を考慮してとのことです。
適用時期は2024年以降の贈与を予定しています。
2023年以前の贈与については「相続日から3年以内の贈与」に該当した場合のみ相続税の課税対象となり、3年超7年以内の贈与
に該当しても課税対象にならない見込です。
2.相続時精算課税制度の見直し
相続時精算課税制度とは贈与税の計算方法の1つです。
贈与税の計算方法には「暦年課税」と「相続時精算課税」があります。
暦年課税とは「(暦年1年間に贈与を受けた金額△110万円)×税率(10%~55%)」にて贈与税を計算する方法です。
贈与者の相続発生時には相続前3年以内(1.により3年から7年に変更される可能性あり)の贈与財産が相続税の課税対象となりま
す。
相続時精算課税制度とは、1/1において60歳以上の贈与者から1/1において18歳以上の子又は孫に贈与を行う場合に一定の届出書
を税務署へ提出することにより適用を受けることの出来る制度です。この制度を選択すると上記の暦年課税は一切使用出来なくなりま
す。贈与税の計算は下記の算式によります。
・(その年の贈与金額△2500万円※1)×20%
※1 届出書に記載した贈与者からの贈与について一生涯での控除額
例 1年目:1200万円控除 2年目:1300万円控除
3年目以降:控除なし(1・2年目で2500万円の控除を利用したため)
※2 贈与を受けた年は金額の大小に係わらず税務署に贈与税申告が必要です
※3 暦年課税のような110万円の控除はなし
贈与者の相続発生時には贈与を受けた金額全額(贈与時の価格)が相続税の課税対象となります。
暦年課税のように相続発生前3年以内の贈与のみ加算という期間の制限はありません。
相続時精算課税制度を利用した場合の贈与税納税額は、贈与者相続時の相続税から控除されます。
特別控除が2500万円あるので多額の贈与を受けることが出来ますが、後の贈与者の相続発生時に贈与額全額が相続税の課税対象と
なる制度です。
生前贈与を後に相続税課税される財産の前取りにする制度というイメージです。
改正点は下記の通りです。
① 贈与税額の計算が下記の通りとなります。
(その年の贈与金額△110万円※△2500万円※)×20%
※110万円の控除は毎年適用可能。2500万円の控除は変更なし。
② 110万円以下の贈与については贈与税の申告を不要とする。
③ 贈与者の相続発生時に相続税の課税対象となる金額に110万円の控除は含まれない。
(110万円の控除分は相続税の課税対象とならない。)
④ 贈与者の相続発生時の相続税の課税対象額は、贈与財産の贈与をした時の価格だが、贈与財産が土地又は建物である場合にその土
地又は建物が災害で被災していた時は価格の再計算を行う事が出来るようにする。
110万円控除の創設、少額の贈与の申告不要への変更、災害で被災した場合の救済など納税額が減少する又は利便性が向上する税制
改正大綱となっております。
適用開始時期は2024年からを予定されています。
3.教育資金の一括贈与の非課税措置の延長及び変更
子や孫の教育資金を親が支払った場合、必要な都度支払えば贈与税は非課税となります。
教育資金の一括贈与の非課税措置は最大1500万円まで「一括」で子や孫に教育資金を贈与した場合に、子や孫が30歳に達した場
合など一定の時までに教育資金として現実に利用した分は贈与税が非課税になる制度です。
子や孫が30歳に達した場合など一定の時に未利用の残高がある場合は子や孫に贈与税が課税されます。
課税となる時までに親が死亡した場合は下記の場合を除いて未利用の残高が相続税の課税対象となります。
① 子や孫が23歳未満
② 子や孫が学校等に在学している
③ 子や孫が教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講している
一般的には①~③に該当することが多いため未利用の残高が相続税の課税対象となることはありません。
なお、子や孫が親より先に死亡した場合は未利用の残高に対する贈与税は生じませんが、未利用の残高を相続する相続人の相続税の課
税の対象となります。
大綱の内容は下記の通りです。
① 2023年3月31日にて制度が終了する予定だったが3年間延長する。
② 課税となる時までに贈与者が死亡した場合に親の相続税の課税価格が5億円を超える場合は未利用残高が必ず相続税の課税対象
になる。
③ 子や孫が30歳に達した場合など一定の時の未利用残高に課される贈与税について一般税率が適用される。
贈与税の税率には一般税率と特例税率があります。一般税率の方が特例税率より課税額が多くなります。
④ 上記の改正は2023年4月1日以降の贈与税等に適用される予定です。
内容としては課税額を増加させる性質のものとなります。
本制度は富裕層ほど教育にお金をかけることを支援する性質があるため税制改正のたびに要件が厳しくなっております。
4.結婚・子育て資金の一括贈与の非課税
3.の教育資金の一括贈与の非課税と同じような制度として本制度があります。
子や孫へ結婚・子育て資金を最大1000万円まで「一括」で贈与した場合に、子や孫が50歳に達するまでに結婚・子育て資金に利
用すれば利用した金額は贈与税が非課税となる制度です。
50歳に達した時に未利用となっている残高には贈与税が課税されます。
子や孫が贈与者より先に死亡した場合には贈与税の課税はありませんが、残高を相続する相続人に対して相続税が課税されます。
なお、50歳に達するまでに贈与者が死亡した場合は残高に対して相続税が課税されます。
納税者は子や孫となります。
さらに贈与を受けた人が孫やひ孫の場合は課される相続税が2割増しになります。
贈与者が死亡した場合に相続税の課税対象となることから3.の教育資金の一括贈与の非課税ほどは利用されていません。
大綱の内容は下記の通りです。
① 2023年3月31日にて制度が終了する予定だったが2年間延長する。
② 子や孫が50歳に達した時の未利用残高に課される贈与税について一般税率が適用される。
贈与税の税率には一般税率と特例税率があります。一般税率の方が特例税率より課税額が多くなります。
③ 上記の改正は2023年4月1日以降の贈与税等に適用される。
内容としては課税額を増加させる性質のものとなります。
本制度は富裕層ほど結婚・子育てにお金をかけることを支援する性質があるため税制改正のたびに要件が厳しくなっております。
相続税も他の税法と同様に毎年のように変更が発生します。
相続税の申告を依頼される場合は税制改正にもしっかりと対応している税理士を選択して頂ければと思います。
※本記事は掲載開始日の法令・情報に基づいて作成されたものです。
税制改正その他の事由により現在の状況とは異なる可能性があることを予めご了承ください。
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